まだまだ寒い日も多いですが、沖縄や奄美では緋寒桜(ヒカンザクラ)が見頃を迎えています。「暖かい南の島の話でしょ…」と思う方も多いかもしれませんが、実は、本州でも今の時期に楽しめる桜があります。
それは、「河津桜(カワヅザクラ)」です!
河津桜とは?
河津桜は、その名の通り、静岡県伊豆半島にある賀茂郡河津町で発見された桜で、ソメイヨシノよりも濃い目の桃色が特徴です。開花時期が1月下旬から2月と早く、また、花の咲いている期間が約1か月にも渡るため、お花見を早く・長く楽しめることも人気の理由となっています。
原木は1955年頃に故・飯田勝美氏により発見され、飯田氏宅の庭に植えられました。樹齢が60~70年に達する今も同じ場所で、毎年鮮やかな花を咲かせています。河津川沿いには約850本、町全体で約8,000本もの桜が咲き、他にも名所のある静岡県・伊豆半島や神奈川県・三浦半島をはじめ、本州から九州の各地で河津桜を楽しむことができます。
なぜ早く咲く?河津桜はショートスリーパー!
早咲きが魅力的な河津桜。ソメイヨシノと違い、早く咲くのには「休眠打破」という現象が関わっています。
桜は、夏に翌年咲かせる花のもととなる「花芽(はなめ)」が作られるのですが、その後は生長をいったん止めて眠りにつきます。そして、秋から冬にかけての寒さに一定期間さらされると、それが目覚まし時計の役割をして、再び生長を開始するのです。この花芽の目覚めを「休眠打破」といいます。
また、休眠打破が行われるのに必要な寒さの量を「低温要求量」といいます。低温要求量は桜の品種によって異なり、ソメイヨシノの場合、10月以降、8度以下の寒さに約800~1,000時間さらされる必要があります。一方、静岡県の伊豆農業研究センターの研究によれば、河津桜の場合は8℃以下に27~59時間程度さらされるだけでOKなんです。
たっぷり眠らないと起きないソメイヨシノに対して、河津桜は少し眠っただけでパッと目覚められるのですね。これが、河津桜がソメイヨシノよりも早く咲くヒミツとなっています。
余談ですが、もし地球温暖化がこのまま進むと、将来的にはソメイヨシノの休眠打破に必要な寒さが足りず、ソメイヨシノが咲けなかったり満開にならなかったりする可能性も指摘されています。温暖化が進んだ未来には、もしかしたら日本を代表する桜が、ソメイヨシノから河津桜に置き換わっているかもしれませんね。
河津桜で町おこし!河津桜まつりとは
花見を早く・長く楽しめる河津桜ですが、その人気はただなんとなく広がった訳ではありません。地元の南伊豆地域での様々な取り組みが、現在の河津桜の人気に繋がっています。
元々、伊豆半島にはソメイヨシノよりも早い時期に咲く様々な桜が自生していて、地域では古くから「早咲きざくら」と呼ばれて親しまれてきました。そこに注目した伊豆環境緑化推進協議会では、1970年代に桜の生態調査を行い、河津桜を含む7品種を「地域内で活用すべき有用な早咲きざくら」と認定して、調査・活用を続けてきました。その中でも河津桜は、地域固有の品種であること、ソメイヨシノよりも色鮮やかで開花期間が長いことから、観光資源としての価値が特に高く、重点的に植栽が進められてきたのです。
そして、1991年からは河津町で「河津桜まつり」が開催されることになり、初年度には3,000人程度だった来場者数は、1999年には初めて100万人に達しました。また、伊豆農業研究センターでは、「河津桜まつり」開催期間への影響や、河津桜の切り枝としての活用を模索する中で、開花予測等の研究も進められています。
そのような努力が実を結び、およそ半世紀前には伊豆半島の片隅でひっそりと咲いていた河津桜が、いまや南伊豆地域を代表する全国区の桜となったのです。
2023年の「河津桜まつり」は、昨日2月1日(水)に開幕し、河津桜は今まさに見頃を迎えています。イベント期間中は300店以上 の出店があり、地場産品や露店ならではの食べ物が並びます。花より団子な方にもピッタリですね。河津桜まつりは2月28日(火)まで開催されるため、ソメイヨシノよりも一足早く、お花見を楽しんでみてはいかがでしょうか♪
詳しくは、河津町観光協会のホームページをご覧ください。
<参考・引用>
「南伊豆地域における早咲きザクラの探索,増殖,生態解明および観光資源としての利用への貢献」
静岡県農林技術研究所伊豆農業研究センター(2012)