温かいお風呂は冬が近づくこの時期こそ一年で最も楽しみ、という方も多いのではないでしょうか。お風呂は「水圧」や、身体が温まる「温熱作用」などによって、身体に対して様々な影響を与えます。これらの特性を理解し、適切に選ぶことで、入浴中の事故を防ぎ、不調の改善や健康増進に繋げることができるでしょう。この記事では、入浴の特性を解説し、それらを活かした、寝不足改善や免疫増強、疲労軽減に効果的な入浴方法をお伝えします。
―入浴の特性:水圧―
水圧は、お風呂の深い所ほど大きくなります。立った状態で肩までお風呂につかると水圧によって体が縮み、胸囲は2~3cm、腹囲は3~5cmも細くなります。同時に、下半身の静脈が圧迫されることによって、心臓へ戻る血流が増加します。この状態から立ち上がり、水圧からいきなり解放されると、身体が温まり毛細血管などが広がっていることも相まって、心臓へ戻る血流が急激に減少します。そうすると心臓から送り出される血液量が減少し、脳へまわる血液も十分ではなくなるため、立ち眩みを起こしやすくなります。肩までつかる全身浴をした後は、一度、半身浴や足湯を挟んで、ゆっくりと立ち上がるとよいでしょう。なお、心臓へ戻る血流が増えると、心臓から利尿を促進するホルモンが分泌されるそうです。お子様と入浴される方は、入浴前の水分補給と一緒に、トイレも忘れないようにさせましょう。
―入浴の特性:温熱作用―
お湯は、空気よりも熱を伝えやすく、身体の芯まで温まりやすいです。身体の中心温度の変化は、脳など重要な器官に影響を及ぼすします。このため、身体は自律的に血のめぐり方を変化させて、安全な体温になるように調整をしています。お風呂に入って体温が上がると、毛細血管など体表近くの細い血管を拡張させて、効率的に熱を体外へ逃がします。また、42℃以上の熱いお湯では、熱刺激により交感神経が刺激されて血管が収縮し、心拍数や血圧も上がります。この交感神経は、副交感神経と対になって、体の様々な機能をつかさどる自律神経のことです。普段は、意識的に変化させることが難しい自律神経ですが、入浴による温熱作用でオンやオフをさせることができます。
―寝不足改善-
寝不足には、ホルモン分泌のリズムが崩れるなど色々な要因がありますが、交感神経が過敏になっていて、夜でも身体が興奮状態になっている場合があるそうです。そこで、入浴により交感神経と対になる副交感神経を優位にさせることで、興奮状態を抑えることができます。副交感神経を刺激するには、37~39℃のお湯に入るとゆっくりと入るのが効果的です。血圧が下がったり、筋肉がほぐれたりして、身体がリラックスします。なお、身体の中心温度は入浴で一度高くなると、身体から熱が逃げやすい状態になるため、お風呂からあがって1~2時間するとグッと低くなります。この体温の低下は通常の入眠の際にも発生し、眠気を引き起こす要因となっているそうです。よって、就寝前の1~2時間前に37~39℃の少しぬるめのお風呂に入ることで、スムーズに眠りにつきやすくなりますよ。
一方、シャキッと目を覚ましたい時には、交感神経が刺激されて身体が興奮状態になる、42℃のシャワーがオススメです。これらの入浴方法で、自律神経にメリハリをつけることで、朝が寒くなってきたこの時期でも、気持ちよく布団から出られるようになるかもしれません。
―免疫増強・疲労軽減―
生き物は、熱などによるストレスを受けることで、ヒートショックプロテインという抗ストレスタンパク質を多く分泌する仕組みを持っています。このヒートショックプロテインは身体において、ストレス防御作用や免疫増強作用、タンパク質の合成・分解・修復の補助などの役割を持っているそうです。ヒートショックプロテインを発現させた実験では、被験者の疲労軽減や運動能力向上につながったとの報告もされています。
ヒートショックプロテインは41℃のお湯で15分、42℃のお湯なら10分入ることで、2日後をピークに増加するそうです。ただ、熱いお風呂が苦手な方や、アトピー性皮膚炎・高血圧症など高温入浴を避けたほうがよい方もいらっしゃるでしょう。その場合、日ごろから入浴習慣があれば、40℃のお湯に15~20分入るだけでもヒートショックプロテインが増加するそうです。ご自身の体調と相談しながら、3日おきぐらいに行うのがオススメになります。
参考文献
「全身入浴またはシャワー浴の入浴習慣がその後のHSP入浴法に及ぼす影響」伊藤要子ほか 日本健康開発雑誌 第42号
「入浴の人体に及ぼす生理的影響-安全な入浴をめざして」樗木晶子ほか 九州大学医療技術短期大学部紀要 第29号
「お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案 最高の入浴法」早坂信哉 大和書房