3月下旬となり、世間はお花見の話題でにぎわっていますが、これからの時期に見られる特別な景色はほかにもあります。そのなかでもおすすめしたいのが”蜃気楼(しんきろう)”です。
このコラムでは蜃気楼がどんな現象で、いつどこで見られるのか、蜃気楼が出やすい気象条件を簡単に解説していきます。
「蜃気楼」とはどんな現象?分類や代表的な現象は?
蜃気楼(しんきろう)とは、光の屈折によって遠くの景色や物が変形して見える大気光学現象です。名前の由来は“蜃(しん)”という生き物が吐きだす気で楼閣をあらわすという中国の歴史書の記述といわれています。
蜃気楼は大気の温度の変わり方によって以下の3つのパターンに分けることができます。
①上位蜃気楼
「春の蜃気楼」ともいわれ、冷気層の上に暖気層がある”上暖下冷”の状態の場合、遠くの景色が上に伸びたり上下が逆転して見えたりします。見られる場所が限られた珍しい現象で、石狩湾やオホーツク海、富山湾、琵琶湖などで観測されています。
「幻氷(げんぴょう)」というオホーツク海で流氷が浮いて見える現象や、「四角い太陽」といわれる太陽が四角く見える現象も上位蜃気楼の一種です。
②下位蜃気楼
一年中見られますが、寒い時期に多いことから「冬の蜃気楼」ともいわれ、全国的に観測されます。暖気層の上に冷気層がある”上冷下暖”の状態の場合、遠くの景色が下に伸びたり映ったりして見えたりします。遠くの景色が空中に浮いた島のように見える現象は「浮島現象(うきじまげんしょう)」と呼ばれます。
「逃げ水」というアスファルトの道路などで遠くに水たまりがあるように見える現象や、「だるま太陽」などといわれる朝日や夕日がだるま型に見える現象も下位蜃気楼の一種です。
③側方蜃気楼(鏡映蜃気楼)
横方向に気温差が生じることで光が屈折して、遠くの景色が左右に伸びて見えます。珍しい現象で、「不知火(しらぬい)」といわれる九州の八代海や有明海で、夜に遠くの光がゆらめいて見える現象が側方蜃気楼の一種とされます。
蜃気楼はいつ見られる?出現しやすい気象条件とは?
上位蜃気楼(春の蜃気楼)が出現しやすい時期は3月下旬から6月上旬頃です。一方、下位蜃気楼(冬の蜃気楼)は、一年中見られるものの11月から3月頃の寒い時期によく見られます。
上位蜃気楼が出現しやすい気象条件は、春の移動性高気圧に覆われ晴れていて、風が穏やかな日で、午前中から気温が上がる日の午後に多い傾向があります。
下位蜃気楼は、水温よりも低い空気が陸から流れ込むと発生しやすいため、冬型の気圧配置が強まった場合や朝晩の空気が冷えやすい時間帯に多い傾向があります。
蜃気楼が見られるおすすめスポットはどこ?
日本で蜃気楼が見られる場所といえば、富山湾やオホーツク海がとりわけ有名です!どちらも春から初夏にかけてのこれからの時期に蜃気楼が見られるかもしれません。
・名勝「蜃気楼展望地点」(富山県魚津市)
富山県魚津市(うおづし)は江戸時代以前から蜃気楼の名所とされ、魚津港周辺の海岸は名勝「蜃気楼展望地点」に指定されていて、多くの人が訪れるスポットです。上位蜃気楼はそもそもの出現回数が多くはないものの、3月下旬から5月頃が出現しやすい時期です。また、富山湾は上位蜃気楼と下位蜃気楼の両方を見ることができる場所です。
あいの風とやま鉄道魚津駅または富山地方鉄道新魚津駅から歩いても20分ほどで行くことができます。
・オホーツク海「斜里町沿岸」(北海道斜里郡斜里町)
幻氷(げんぴょう)は、オホーツク海の「海明け」を告げる春の風物詩で、4月から5月の暖かい日によく見られる現象です。北海道の知床半島にある斜里町(しゃりちょう)は、国内有数の蜃気楼が見られるスポットです。
斜里町までは車やバイクで行くほかは、JR北海道・釧網本線に乗って知床斜里駅で下車するか、女満別空港などからバスも運行されています。
<参考・引用>
・大鐘卓哉,「北海道は蜃気楼(しんきろう)の名所」,日本気象学会北海道支部,細氷56号(2010)
・大鐘卓哉,加藤宝積,佐藤トモ子「流氷の蜃気楼の観察と「幻氷・おばけ氷」に関する考察」,日本雪氷学会北海道支部, 北海道の雪氷32号(2013)
・木下正博,市瀬和義,「富山湾における上位蜃気楼の発生理由-気温の鉛直分布が示す新たな事実-」,日本気象学会誌「天気」Vol.49 No.1(2002)
・佐藤真樹,桜井正,「魚津の下位蜃気楼・上位蜃気楼の見え方とお天気」,日本蜃気楼協議会(2019)