津軽の七つの雪とは何のこと?太宰治の小説「津軽」と現在使われている雪の種類とは

津軽の雪
こな雪
つぶ雪
わた雪
みづ雪
かた雪
ざらめ雪
こほり雪
(東奥年鑑より)

青森県北津軽郡生まれの文豪・太宰治の書いた小説「津軽」には、冒頭にこのような記述があります。これら”津軽の七つの雪”は、新沼謙治のヒット曲の歌詞にも使われていて、津軽の冬の情景をあらわしていると言えます。
津軽の七つの雪とは何なのか、また現在使われている雪の種類について、気象予報士が解説していきます。

津軽とはどこ?青森県の地域区分とは

津軽地方とは

※画像引用:気象庁「気象警報・注意報や天気予報の発表区域」

津軽地方(つがるちほう)は、現在の青森県西部のことで、江戸時代に大名の津軽氏が支配した弘前藩・黒石藩の領域と津軽郡の領域とおおむね一致します。
一般に、青森県は津軽地方と下北地方、南部地方に分かれますが、気象庁の一次細分区域は津軽地方と下北地方、三八上北地方となっていて、三八上北地方が南部地方とイコールです。津軽地方はさらに北五津軽と東青津軽、中南津軽、西津軽に細分され、冬は西高東低の気圧配置によって大雪に見舞われやすいのが特徴です。

津軽の七つの雪とは?

ここからは“津軽の七つの雪”をひとつひとつ解説していきます。
津軽の七つの雪は「東奥年鑑」という青森県の1年の出来事をまとめた文献を元にしていて、1941年(昭和 16 年)の「東奥年鑑」にある「雪ノ種類」に七つの雪に関する記述があります。

・こな雪
湿気の少ない軽い雪で息を吹きかけると粒子が容易に飛散する
・ つぶ雪
粒状の雪(霰を含む)の積もったもの
・わた雪
積雪初頭及び最盛期の表層に最も普通に見られる綿状の積雪で余り硬くないもの
・みず雪
水分の多い雪が積ったもの又は日射暖気の為積雪が水分を多く含む様になったもの
・かた雪
積雪が種々の原因の下に硬くなったもので根雪最盛期以後下層に普通に見られるもの
・ざらめ雪
雪粒子が再結晶を繰返し肉眼で認められる程度になったもの
・こほり雪
みず雪、ざらめ雪が氷結して硬くなり氷に近い状態になったもの

これらの雪の分類は、東北地方の気象台・測候所が協議して定めたものです。新沼謙治の曲の歌詞では七つの雪のすべてを”降る”と表現していますが、七つの雪は基本的に積雪の種類であることがここから分かります。
また、1943年(昭和18年)12月27日には、中央気象台観測法改定委員で、正式に8種類の積雪の分類及び名称が制定されています。それによると、積雪の種類は、①カワユキ(乾雪)、②シメリユキ(湿雪)、③カタユキ(堅雪)、④シメリカタユキ(湿堅雪)、⑤ザラメユキ(粒雪)、⑥カワキザラメユキ(乾粒雪)、⑦コホリユキ(凍雪)、⑧ヒョウバン(氷板)となりました。

現在使われる雪の分類とは?

<積雪の種類>
気象庁は、さまざまな気象用語を用いていますが、積雪の種類に関しては明確な定義はありません。前述の8種類の積雪の分類及び名称(1943年)も現在ではあまり見かけないものとなっています。

雪の重さ

日本雪氷学会では、積雪の変化を時間経過とともに、新雪・しまり雪・ざらめ雪に分類しています。時間が経つにつれて重さを増し、1㎥あたりの雪の重さは、降ったばかりの新雪でおよそ50〜150kg、雪の重みで押し固められた雪だと最大500kgぐらいにもなります。
・新雪
降ったばかりの雪で、最も軽い状態です。
・しまり雪
降ってから時間が経過し、雪の重みで押し固められた雪です。
・ざらめ雪
一度とけてから再度凍った雪で、最も重い状態です。

<降雪の種類>
気象庁の雪の予報は、雪だけではなく、みぞれやあられも含んでいます。
・みぞれ
雨と雪が混在して降ることで、天気予報では「雨か雪」、「雪か雨」と表現することが多くなります。
・あられ
雲から落下する氷の粒で、直径が5mm未満のものをいいます。「雪あられ」と「氷あられ」とがあり、「雪あられ」は雪、「氷あられ」は雨に含まれます。

降雪

また、気象庁が定義しているものではありませんが、粉雪、たま雪、灰雪、わた雪、もち雪、べた雪(ぼた雪・ぼたん雪)などはよく使われる表現です。
・粉雪
粉のようにさらさらと乾燥している雪のことで、「パウダースノー」とも呼ばれます。
・たま雪
雪片が丸い雪のことで、冬の初めや終わり頃、暖冬の年に見ることが多くなります。
・灰雪
灰のように舞いながら降る雪で、降雪として多いパターンです。
・わた雪
綿のような雪のことで、雪片が大きいのが特徴です。
・もち雪
水分量が多く、やや溶けかかった雪のことで、わた雪やべた雪に近いものです。
・べた雪
水分量が多く、大きな雪片で降る雪のことです。ぼた雪・ぼたん雪とも呼ばれます。

このほかにも雪を表す綺麗な言葉は数多く存在し、こちらのコラムでも紹介しています。
青森県では、この先も2月半ばにかけて積雪の多くなる時期です。雪のシーズンを乗り越え、春を待ちましょう。

 

<参考・引用>
・太宰治「津軽」
・気象庁「気象警報・注意報や天気予報の発表区域」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/saibun/
・気象庁「天気予報等で用いる用語」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/mokuji.html
・東奥日報社,「気象」, 昭和 16 年版東奥年鑑(1941)
・中央気象台,「積雪質の分類及び名稱に關する件」, 測候時報 15(3)(1944)
・日本雪氷学会「積雪・雪崩分類」(1998)