冬型の気圧配置で降る東京都心の雪とは?雪の降る目安となる上空の寒気の目安を気象予報士が解説

12月も中旬となり、平年では関東北部で初雪の観測される頃で、関東南部も早ければ雪がチラチラと舞うようになります。
東京都心など、関東平野部の雪は関東沖を進む低気圧、いわゆる“南岸低気圧”によって降り、西高東低の冬型の気圧配置の場合は晴れて乾燥した北風が吹くとよく言われますが、昨シーズンの東京の初雪は、実は冬型の気圧配置で降っています。その原因となる“忍者雲”や“房総前線”などと呼ばれる現象と、雪の降る目安となる上空の寒気について気象予報士が解説していきます!

忍者雲とは?

忍者雲とは、千葉県の房総半島から伊豆半島付近にかけて発生する、“房総前線”あるいは“房総不連続線”などと呼ばれる局地的な前線やシアーライン(収束帯)によってできる雲です。主に冬にできて、関東の平野部が広い範囲で晴れていても、局地的にくもって、雨や雪をもたらすことがあります。

冬型の気圧配置

忍者雲のできる原因は、西高東低の冬型の気圧配置となった場合の“季節風”と“地形”にあります。
そもそも西高東低の冬型の気圧配置とは、西の大陸側にシベリア高気圧という冷たく乾燥した高気圧が、東の北太平洋に低気圧が居座っている状態をいいます。シベリア高気圧から吹き出す北西の季節風の影響で、日本海では雪雲が発生しますが、シベリア高気圧は背の低い高気圧のため、雪雲も背が低く、基本的に山脈を越えられません。そのため、日本海側を中心に雪が降り、山脈を越えた太平洋側はカラッと晴れて、冷たい風が吹くことが多くなります。
東京都心など関東平野部もこのメカニズムによって冬晴れとなるのですが、では忍者雲はどうしてできるのでしょうか。

忍者雲メカニズム

答えは、北西の季節風が、関東山地や中部山岳といった脊梁山脈(せきりょうさんみゃく)を大きく迂回して、房総半島から伊豆半島付近で収束するためです。
これは局地的な現象のため、地上天気図上には現れづらく、晴れて油断していると急に天気が崩れることもあり、神出鬼没なことから“忍者”という名前がつきました。

忍者雲によって過去に雪が降ったケースとは ―2024年の東京の初雪―

忍者雲の事例

2024年1月13日に観測された昨シーズンの東京の初雪は、忍者雲によって降りました。
この日は関東で昼過ぎから雨や雷雨となり、次第に雪へと変わりました。午後3時の地上天気図だと関東周辺に低気圧や前線はありませんが、房総半島付近で等圧線が膨らんでいます。赤い点線で表した部分では、関東北部方面からの北よりの風と東海方面からの西よりの風がぶつかり、収束帯ができています。それに加えて、関東上空に強い寒気が流れ込んでいたため、午後5時20分頃に東京の初雪が観測されました。

雪の降る目安なる上空の寒気とは?

私たち気象予報士が、冬の天気図を見る際にポイントとする数値の1つが「上空の気温」です。
ポイントは、上空約5,500m(500hPa)と上空約1,500m(850hPa)の気温で、上空約 5,500mの気温は大雪、上空約 1,500mの気温は雪か雨の判断の目安としています。

気温の高度分布と大気層の区分の模式図

まず、上空5,500mは-30℃以下となると山地で雪が降るといわれ、-36℃以下では平地でも雪となって大雪となる可能性があります。この理由は、上空の高度が10~16kmぐらいまでは対流圏といって、高度が上がると気温が下がることに関係しています。気温が下がる割合を“気温減率”といい、空気が湿っているか乾いているかでも違うのですが、平均すると100m上がる毎に0.65℃下がります。つまり上空5,500mと地表面では約36℃の気温差があるという計算になり、上空で-36℃ならば地表面では0℃となります。山地と平地で基準が違うのは、山地は標高が高い分だけ上空との気温差が少ないためです。

雨雪判別表

次に、上空1,500mは-6℃が空から降るものが雨か雪かを判断する基準となり、冬は空気の乾燥していることが多い関東など太平洋側の地域では-3℃が目安とされます。これも前述の気温減率が関係しています。上空1,500mと地上面の差は計算上では約10℃なので、上空1,500mで-6℃ならば地表面では4℃ぐらいとなります。
空気が乾燥していると基準が変わるのは、上空から降ってくる雪の結晶は、湿度が低いと昇華(固体が水蒸気に変わること)が起こりやすく、その際に周囲の空気の熱を奪って気温を下げるためです。

今シーズンの東京の初雪はどうなる?

この冬にはラニーニャ現象が発生するとみられていて、一般にラニーニャ現象は”暑夏寒冬”を日本にもたらすことが知られています。

3か月予報

※気象庁HP 「季節予報 3か月予報解説資料(2024年11月19日発表)」より引用

2024年11月19日に発表された3か月予報によると、12月から2月にかけて、東日本太平洋側では気温はほぼ平年並で、降水量は平年並か少ない予想となっています。これは冬型の気圧配置が続きやすいためで、東京は冬晴れの日が多くなる見通しです。ただ、上空には寒気が流れ込みますので、今シーズンも初雪が忍者雲によってもたらされる可能性があります!
東京都心は雪に慣れていないため、少しの雪でも交通網に影響が出る可能性があります。また、雪道を歩き慣れていないため、転倒によるケガにも注意が必要です。こちらのコラムも参考に、雪への備えがまだの方は早めに済ませておきましょう。

 

<参考・引用>
・気象庁HP 「大気の構造と流れ」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-1-1.html

・気象庁HP 「季節予報 3か月予報解説資料」 2024年11月19日発表
https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/kaisetsu/?region=010000&term=P3M