2023年9月中旬に入り、台風に関する話題を見聞きする機会が増えてきているかと思います。いまからちょうど1年前の2022年9月17日頃は台風14号の影響で、九州を中心に西日本から北日本の広い範囲で暴風となり、海では猛烈なしけや大しけとなりました。
過去の台風資料を振り返ることや基礎知識を定期的に学び直すことはとても大切です。
防災科学の先駆者としても知られる物理学者・寺田寅彦氏は次の言葉を残されています。
「天災は忘れた頃にやってくる」
このコラムでは台風の一生や台風の統計情報などをはじめ、台風対策の見直しポイントについても紹介していきます。
台風のできかたって?台風の一生を追いかけてみよう!
1年前の2022年9月14日3時に台風14号が発生し、9月20日3時に温帯低気圧に変わるまでの間、九州を中心に西日本から北日本の広い範囲で暴風となり、海では猛烈なしけや大しけとなりました。この台風14号を例に、台風の一般的な一生を解説していきます。
発生期:台風の発生のポイントは最大風速が17m/s!
(気象庁:日々の天気図をもとに作成)
台風の卵の多くは赤道付近の海上で発生しやすいです。暖かい海面水温の海域では、上昇気流が発生しやすく、積乱雲が次々と発生し、渦を形成するものがあります。この渦の中心気圧が下がりながら発達すると、熱帯低気圧となります。この中で、東経180°より西の北西太平洋または南シナ海上に位置し、最大風速が17m/s以上になると気象庁より台風の発生が発表されます。
2022年の台風14号は、気象庁の確定版資料によると9月14日3時に北緯22.4°・東経140.1°を中心位置に、小笠原近海で発生しました。この時の中心気圧は996hPa、最大風速は18m/sとなっていました。
発達期・最盛期:エネルギー源は水蒸気!最盛期は中心気圧と最大風速に注目
(気象庁:衛星画像をもとに作成)
気象庁では台風の発達期を、「台風となってから、中心気圧が下がり勢力が最も強くなるまでの期間」として定めています。また、台風の最盛期とは、「中心気圧が最も下がり、最大風速が最も強い期間」とされています。
2022年台風14号は9月17日3時に中心気圧が最も低い910hPaに達しました。発生時の14日3時からは86hPaも低下し、最大風速が55m/sに達する急発達となり、大型で猛烈な勢力の台風となりました。17日3時から17日21時が台風14号の最盛期となりました。
なぜ台風はここまで発達したのでしょうか?海の温度がカギを握っています。台風14号が最盛期に北上した日本の南の海上は海水温が27℃以上と高く、この海域で暖められた水蒸気をエネルギー源に発達しました。
また、衛星画像上からも明瞭な台風の目を確認することができます。台風の目は、小さくかつ明瞭なものほどよく発達しているサインになります。テレビなどで台風の目を見た際は、目の大きさと明瞭さをポイントに眺めてみると良いでしょう。
衰弱期:徐々に衰弱するも油断大敵!やがて熱帯低気圧や温帯低気圧へ変化
(気象庁:衛星画像をもとに作成)
台風はやがて衰弱期へと移ります。台風が北上すると、熱帯にいた頃よりも海面水温は低く、上陸すると海面から水蒸気のエネルギーを供給できなくなるため、海から受け取ることができる水蒸気の量が少なくなります。このため、台風の構造を維持することができなくなります。やがて、北からの寒気の影響を受け、前線を伴う温帯低気圧へ変わったり(温帯低気圧化)、前線を伴わず、風速が17m/s未満となって熱帯低気圧に変わったり(熱帯低気圧化)、構造が変化します。
ただ、台風の構造が変わった後も、活発な雨雲による大雨や強い風が起きる可能性があるため、構造が変化した後も消滅するまでは油断ができない状況が続きます。温帯低気圧に変わったと見聞きし、安心しがちですが、雨や風が弱まるわけではありません。むしろ強風域は広がる傾向があり、台風が過ぎ去った地域も吹き返しの風に注意が必要です。
2022年の台風14号は、衰退期に移りつつも、大型で非常に強い勢力を保ったまま、九州を北上しました。
気象庁の確定版資料では、この後台風は日本海を北東へ進み、20日3時に北陸地方で温帯低気圧に変わりました。
台風は衰弱期に入っても日本に大きな被害を残す恐れがあります。台風の動向は最新の気象情報で確認するようにしましょう!
引退することも!?台風の名前の付け方
ここまで台風の一生を見てきました。台風は一般的にその年に発生した最初の台風を1号として発生順で名前が付けられていますが、そのほかにも呼び名があることをご存じでしょうか?
ポイントとなる2つをご紹介します。
1つ目は、台風はアジア共通の名前が付けられます。台風の名前は台風委員会に参加している国(日本を含むアジア圏とアメリカの合わせて14か国)から提案され、名前は1番目から140番目まで決められています。台風の年間発生数の平年値(1990~2020年)は約25個です。約5~6年で一巡し、再び同じ名前が付けられるようになります。日本からは星座を由来に10個提案されているんです!また、大きな災害に繋がった台風の名前は台風委員会からの要請により、以後使用しない(すなはち引退する)場合があります。実は今年、日本から提案した名前に見直しがあり、2019年台風28号で被害が発生したカンムリから変わってコトが追加されました。
2つ目は、気象庁独自の名前が付けられることです。気象庁では顕著な災害を起こした自然現象については名称を定められています。台風の分野では、「伊勢湾台風」や2019年に伊豆半島から上陸し、関東・福島県を縦断した「令和元年東日本台風」などがあります。台風以外にも大雨や地震・火山などにも名前が付けられることがあります。
2022年台風14号のアジア名称は「ナンマドル」と付けられています。
2023年の台風は今後どのような名前が付けれられるのか、気になる方は気象庁の解説ページも合わせて確認してみてください!
台風の多い時期は?台風の統計を知ろう
(気象庁:台風の統計資料をもとに作成)
台風は夏から秋にかけて多い印象があるかと思いますが、気象庁がまとめる統計資料でも、この印象はデータで裏付けられています。基本となる台風の発生数や接近数、上陸数の月別の平年値(1990~2020年の平均)を押さえておきましょう。
台風の発生数で最も多い月は8月で5.7個、2番目に多い月は9月の5.0個となっています。また、接近数は8月・9月ともに3.3.個、上陸数は8月で0.9個、9月は1.0個です。
発生数に対する接近数の割合に着目すると8月で約58%、9月は66%と、台風が日本に影響を与える割合は9月が高くなります。9月の太平洋高気圧の西への張り出しは8月に比べて弱まるため、高気圧に縁に沿って移動する台風は日本付近を通過しやすくなるんです。
9月に発生する台風は日本付近を通りやすい、ということを覚えておきましょう!
台風対策を「見直そう!」備えはできることからはじめよう
非常に残念ではありますが、台風は毎年日本のどこかで被害を残していきます。台風への備えに関して、頭に何を思い浮かべますか?現時点よりも少しでも正しい判断や充実した備えができるように、身の回りの小さなことから台風対策を見直していきましょう!
●家の外での備え
台風に伴って風が強まります。雨戸の使用や補強ができる準備が整っていますか?飛ばされやすい物の管理や自動車をカバーで覆うなどの被害軽減に繋がる準備ができるかなどについても確認が必要です。
また、台風は大雨による被害も発生します。自宅の側溝や排水溝など、水はけ具合についても時間に余裕のある内に確認してみると良いでしょう。
●家の中での備え
台風は停電や断水を引き起こすおそれがあります。懐中電灯やラジオは使用できますか?乾電池やモバイルバッテリーはお持ちですか?非常食についても何があるか定期的に確認することは大切です。
●避難経路・避難時の持ち物の再確認
避難場所はどこになるのか、最寄りの避難所以外にも何個か場所を押さえておくと安心です。
また、避難時の持ち物は、貴重品以外に何が必要かすぐに思いつきますか?飲料水や非常食、救急医療品などがありますが、リュックサックに詰め込められる容量には限界があります。そらくらのコラムでは、防災時における一般的な持ち出し物チェックリストの紹介もしています(https://sorakura.jp/20220901201-2/)。
何を選択すべきかは人それぞれで異なります。自分にとって、ベストな持ち物リストを作成しておくと安心です。
<参考>
気象庁:台風について
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/index.html
気象庁:過去の台風資料
https://www.data.jma.go.jp/yoho/typhoon/index.html
気象庁:災害をもたらした気象事例
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/index.html
気象庁:気圧配置 台風に関する用語
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/haichi2.html
気象庁:日々の天気図
https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/hibiten/index.html
気象庁:海洋の健康診断表
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/index.html
気象庁:観測画像の紹介
https://www.data.jma.go.jp/sat_info/himawari/image.html