【コールドムーン】今年最後の満月は歴史に思いを馳せて

コールドムーンと今年これまでの満月の天気

「コールドムーン」はネイティブアメリカンのモホーク族による12月の満月の呼び名です。ネイティブアメリカンの多くの部族が、各月の満月に名前をつけて、季節進行を把握するための手掛かりにしていました。1792年以来、北米で毎年のように刊行されている年鑑には、入植者による呼び名も含めて、満月の主要な名称が掲載されています。日本でも2010年代後半からもマスメディアを通じて、広く知られるようになりました。

2022年の主要都市における満月の夜~明け方の天気
(※満月の瞬間が午前中の明るい内であった場合は、見頃となる前日夜~当日明け方を対象とした)

今年2022年これまでの満月は、満足に観望することができたでしょうか?主要都市の天気を気象庁ホームページから調べましたので、各月の満月の名称と一緒に振り返りましょう。フラワームーン(5月)やストロベリームーン(6月)、バックムーン(7月)はちょうど梅雨の時期にあたり、あいにくの天気の所が多くなりました。一方、広く晴れ間が出たのはピンクムーン(4月)とビーバームーン(11月)で、移動性高気圧に覆われて晴天に恵まれました。特にビーバームーンは皆既月食と天王星食が重なり、各地で見ものとなった天体ショーでしたね。


2022年11月8日の皆既月食と天王星食(筆者撮影)

2022年のコールドムーンは12月8日の13時08分です。明るい昼間に満月の瞬間を迎えますが、当日の夜は晴れるといいですね。ぜひ、そらくらで天気予報をチェックして下さい。

「東(ひむがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ」

遠くアメリカの伝統に思いを馳せるのもいいですが、古代の日本には寒空の月を題材にした歌があります。

「東(ひむがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ」

この歌は、飛鳥時代の歌人である柿本人麻呂が692年12月に軽皇子(かるのみこ)と阿騎野(現在の奈良県宇陀市)へ訪れた際に詠いました。阿騎野は、軽皇子の祖父である大海人皇子(天武天皇)や若くして亡くなった父の草壁皇子などが、壬申の乱(672年)の際に通った場所でした。この歌は、亡くなった草壁皇子を西の空の月に、その息子である軽皇子(後の文武天皇)を東の空の太陽に見立てて、軽皇子が次の時代を担っていくことを詠んだものとされています。教科書にも掲載されることがあり、見聞きした方も多い歌ではないでしょうか。


柿本人麻呂(出典:wikipedia

「かぎろひ」とは?

さて、この歌に出てくる「かぎろひ」は何のことを指しているのでしょうか。宇陀市のホームページによると、「かぎろひ」は

「日の出の1時間ほど前に現れる陽光「かぎろひ」。」

と紹介されています。この文章からは、日の出前の朝焼けのように思えますが、日の出の1時間ほど前というと、水平線がようやく確認できるぐらいの淡い薄明の頃です。陽光とまでは言えそうにないことから、「かぎろひ」は朝焼けのことではないかもしれません。朝焼け以外にどのようの説があるのか調べてみると、

「特にかぎろひは何を指すのかということについては陽炎説,朝焼け説,黄道光説などなど未だ定まったとはいえない。」中村(2000)

とあるように研究によって、異なる解釈があるようでした。引用文にある「黄道光」は、太陽系の地球軌道付近にある塵が太陽光を散乱し、地球へと届いた光のことです。この黄道光を地球から見ると、太陽の見かけの通り道である黄道に沿って光が延び、太陽に近い部分ほどより明るくなります。しかし、その光は、天の川よりも淡いため、朝焼けの始まる前が最も見頃となるそうです。宇陀市ホームページの「かぎろひ」の紹介にあった、日の出の1時間ほど前という時刻は、ちょうど朝焼けの始まる前ですので、この時間の定義にも合います。現在の日本では街明かりの影響で天の川すらまともに見ることができませんが、当時であれば太陽が昇る前に湧き立つ黄道光を「かぎろひ」として見られたのかもしれません。

マウイ島ハレアカラ山頂で撮影された黄道光(出典:wikipedia

12月9日の明け方は、東は朝焼け、西に満月

月は軌道の関係から、新月の頃には太陽の近くに、満月の頃は太陽から遠い位置に見ることができます。柿本人麻呂の歌では、太陽が東の空、月は西の空と離れた所にあるため、当時は満月前後であったことがうかがえます。このことは今も変わらず、2022年の満月の翌朝である12月9日の明け方は、朝焼けとともに、西の空に沈んでいく月を見ることができます。いにしえの時代に生きた柿本人麻呂や軽皇子が見たかもしれない景色を、少し早起きして体験してみませんか?12月9日の日の出の時刻は、東京都心で6時39分頃、奈良県宇陀市は6時51分頃です。

12月9日07時の奈良県奈良市の東の空(出典:星空:Every Starry Night AI ( hoshifuru.jp )を加工)

12月9日07時の奈良県奈良市の西の空(出典:星空:Every Starry Night AI ( hoshifuru.jp )を加工)

 

引用文献
・宇陀市/第50回かぎろひを観る会【メインイベント】
https://www.city.uda.nara.jp/shoukoukankou/2022_kagirohi_mainevent.html
・「人麻呂が見た「炎(かぎろひ)」」中村 隆信 北海道立教育研究所附属理科教育センター研究紀要第12号
参考文献
・cold Moon: Full Moon in December 2022 | The Old Farmer’s Almanac
https://www.almanac.com/full-moon-december
・こよみの計算 – 国立天文台暦計算室
https://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/koyomix.cgi
・薄明(はくめい) – 国立天文台暦計算室
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/topics/html/topics1992.html
・星空・星図素材 ベクター ai | CC BY 3.0 | 星降る
https://hoshifuru.jp/EveryStarryNight/starchart/ai/
「天文年鑑2022年版」2021年11月 誠文堂新光社