今が旬!さくらんぼ
赤く艶々とした果物の宝石、さくらんぼはこの時期から7月中旬にかけて旬を迎え、産地ではさくらんぼ狩りも始まります。さくらんぼは栽培にとっても手のかかる果物で、美味しいさくらんぼを育てるには、季節ごとの丁寧な作業に加えて、栽培する土地の気候が重要なカギを握っています。
このコラムではさくらんぼの栄養素をお伝えするほか、山形県庁の園芸大国推進課所属の小野寺玲子さんに山形県の気候がさくらんぼ栽培に優れている理由、美味しいさくらんぼの見分け方やさくらんぼの保存方法についてお聞きしました。
さくらんぼの栄養素とその効果
さくらんぼには、食物繊維、カリウム、カルシウム、マグネシウムや葉酸、βカロテン、ビタミンCなどの栄養素が含まれています。文部科学省の食品成分データベースによると、ビタミンCが多く含まれるイメージのアセロラと比較すると可食部100g当たりのビタミンの量は多くはないものの、カリウムなどの栄養素がバランスよく含まれていて、利尿作用や美肌、疲労回復に効果があります。皮の赤い色にはポリフェノールの一種、アントシアニンが含まれており、抗酸化作用が期待できます。
気候が味方!山形県のさくらんぼ作り
全国ナンバーワン 山形県のさくらんぼ
さくらんぼは1868年(明治元年)にドイツ人のラインホルト・ガルトネルが北海道の七飯町で試植をした後、1875年(明治8年)に山形県でも栽培が始まりました。全国各地で栽培が試みられましたが、実らせることが出来たのは山形県とその周辺だけだったそうです。現在では、山形県のさくらんぼの出荷量は11,700t(R5)と、全国の約75%を占めていて全国1位となっています。
ここからは、さくらんぼ作りに適した気候と保存方法などについて、山形県庁の園芸大国推進課の小野寺さんにお伺いしました。
気温の日較差と梅雨時期の雨が少ないことがポイント
――山形の気候がさくらんぼ栽培に優れている理由について教えてください
小野寺さん:山形県内でもさくらんぼの栽培が盛んな村山地域と置賜地域は、周囲を山に囲まれた盆地となっています。その気候の特徴として、気温の日較差が大きいことと降水量が比較的少ないことが挙げられます。一日の気温差が大きいことは、糖度の高い美味しいさくらんぼ作りに好条件であり、収穫前にあたる梅雨時期の降水量が少ないことは、実が収穫前に割れてしまう裂果(れっか)の発生が少なく品質の高いさくらんぼ作りに向いています。
また、さくらんぼには、翌年の果実生産のために、葉を落として栄養を蓄える休眠期があります。休眠を終えて再び生育を始めるためには、この期間一定の寒さ※におかれる必要があります。山形の厳しい冬の寒さは、さくらんぼの休眠に最適であり、しっかり花を咲かせ実を結ぶことができます。
※休眠から覚醒するために必要な低温時間は、「佐藤錦」が7℃以下1,650時間、「紅秀峰」が7℃以下1,450時間。
甘いさくらんぼ作りには日較差が重要
――なぜ気温の日較差が大きいと、さくらんぼの甘みが増すのでしょう?
小野寺さん:さくらんぼは、日中に光合成で糖類を作り、夜間は作った糖類を呼吸で消費しています。日中の気温が高いと、光合成で糖類が大量に作られます。一方で、夜間の気温が低いと呼吸が抑えられるため、糖類の消費量が少なくなります。そのため、気温が昼に高く、夜に低いことで、糖類をたっぷり蓄えた甘いさくらんぼができ上がります。このように、甘く美味しいさくらんぼを作るために、日較差が重要となります。
さくらんぼの実は雨で割れてしまう
――さくらんぼの実はデリケートで雨に当たると割れてしまうと聞いたことがあるのですが本当ですか?
小野寺さん:さくらんぼの果実表面には、たくさんの気孔があり、雨水が当たると、ここから果実内に吸収されます。その結果、果実内の膨圧(外に膨らむ力)が高まり、表面の細かい傷や雌しべの痕を起点として、耐え切れずに果皮が裂けてしまいます。また、しばらく雨が降らずに土が乾燥した状態が続いた後、大雨や長雨で大量に根から水を吸収してしまうと、果実内の膨圧が急激に高まり、果実に直接雨水が当たった時と同様に、裂果してしまいます。
――さくらんぼの雨対策について教えてください
小野寺さん:雨への対策として雨除けハウスが挙げられます。山形県内で広く行われている栽培方法では、さくらんぼの樹の高さが3.5m~4mくらいになるため、雨除けハウスの多くは、5m~5.5mを超える高さです。毎年さくらんぼが実を結び、果実が色づき始める時期になると、雨除けハウスの屋根にビニールを被覆しますが、重労働で危険を伴う作業です。そのため、現在は、軽労化や施設費の削減を目的として、低樹高化を進めており、高さ3.5m~4mほどの低いハウスの導入も進んでいます。
美味しいさくらんぼの見分け方
――美味しいさくらんぼを見分ける方法を教えてください
小野寺さん:美味しいさくらんぼを見分けるポイントは、①果実が大きい、②果実の表面に張りとつやがある、③果実全体が濃い赤に色づいている、の3つです。
果実の色は、「紅秀峰」など、品種によっては、完熟すると赤黒くなるものもあります。また、新鮮な果実は、軸が鮮やかな緑色を保っています。
ベストな保存方法は温度・湿度一定
――さくらんぼの自宅での保存の仕方についてを教えてください
小野寺さん:さくらんぼは、急激な温度の変化に弱い果物です。そのため、通常、常温で販売されており、手元に届いた翌日(収穫後3日程度)までに食べきる場合は、直射日光の当たらない、涼しい場所に、常温のまま保存してください。食べる1時間前くらいから冷蔵庫で冷やすと、おいしく食べることができます。
また、宅配等で冷蔵品が届いた場合は、冷えすぎないよう、冷蔵庫の野菜室に入れます。
乾燥や結露した水分から果実を守るため、常温、冷蔵いずれの場合でも新聞紙などで包んでおくと良いです。あまり長く日持ちしないので、美味しく食べるためには、なるべく早く食べきるのがおすすめです。
いかがでしたでしょうか。
青果店やスーパーで見かけたらぜひお手に取ってみてくださいね。
参考
農林水産省「消費者の部屋」展示 もうすぐ150年-山形県のさくらんぼ栽培
https://www.maff.go.jp/j/syouan/heya/sakurannbo.html
農林水産省 作物統計調査 令和5年産びわ、おうとう、うめの結果樹面積、 収穫量及び出荷量
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500215&tstat=000001013427&cycle=7&tclass1=000001032287&tclass2=000001032295&tclass3=000001211320&stat_infid=000040117200&cycle_facet=tclass1%3Atclass2%3Atclass3&tclass4val=0
文部科学省 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
https://fooddb.mext.go.jp/